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VICアカデミー「デジタル時代のビジネスとAI活用」
2026年 04月 24日
VICアカデミーとは、弊社理念にある「学習と成長」の実践の1つとして開催しているVIC社員及び関係者のための
勉強会です。
「デジタル時代のビジネスとAI活用」
講演者:元グーグル・クラウド・ジャパン上級執行役員 石積 尚幸 氏
実施日:2026年3月24日(火)
【講演者プロフィール】
1959年 札幌市生まれ
1982年 小樽商科大学商学部 卒業
1982年 横河・ヒューレット・パッカード株式会社(現日本ヒューレット・パッカード株式会社)入社
2002年 同社執行役員エンタープライズ事業統括第二営業統括本部長
2003年 同社執行役員エンタープライズストレージ&サーバ統括本部統括本部長
2004年 同社常務執行役員テクノロジー事業統括
2005年 同社取締役副社長
2008年 日本オラクル株式会社 常務執行役員カスタマーサポートサービス統括
2009年 同社専務執行役員カスタマーサポートサービス統括
2013年 同社副社長執行役員カスタマーサポートサービス統括
2018年 同社執行役員副社長
2020年 グーグル・クラウド・ジャパン合同会社上級執行役員就任
■キャリアの全体概要
私は1982年に小樽商科大学を卒業した。当時は学生の多くが金融機関へ進む時代であったが、私は「世界一の製品を持つ」「グローバルな活躍ができる」「家庭的な経営」という3つの条件を自ら課し、当時は無名に近かった横河ヒューレット・パッカード(現:日本ヒューレット・パッカード)に入社した。新卒から26年間勤め、45歳で副社長を任されるに至った。
その後、日本オラクルで副社長を務め、60歳で退職する際には「ワインバーでも開いて悠々自適に過ごそう」と考えていた。
しかし、Google Cloud Japanの社長から「日本のエンタープライズ企業はまだクラウドを使いこなせていない。あなたはIT業界に恩返しをする時だ」と熱烈な勧誘を受け、5年間限定でGoogleに身を置くことを決意した。2024年にGoogleを退職し、現在は、その長年の経験を社会に還元すべく、故郷・北海道の松尾ジンギスカン(株式会社マツオ)の顧問や、小樽商科大学の特任教授、札幌市の企業誘致アドバイザーとして活動している。
■HPで学んだ「信頼」と、オラクルで学んだ「スピード」
私は3つの企業で、それぞれ全く異なる組織文化を学んだ。HPには「HPウェイ」という文化があり、「適切な環境さえ与えれば、人は自ら良い仕事をする」という人間性への深い信頼が根底にあった。また、プリンタービジネスで見られるような、ハードウェアそのものではなくインクや紙といった「消耗品」で継続的に利益を出すビジネスモデルの重要性も、この時期に身をもって経験した。
一方、オラクルは「スピード」を至上命題とする会社であった。日本企業の多くが「じっくり構えて、狙いを定めてから撃つ」スタイルを好むのに対し、オラクルは「構えたらすぐに撃て(Ready, Fire, Aim)」という考え方である。まず実行に移し、外れたらその場で修正してまた撃てばよいという圧倒的なスピード感こそが、イノベーションを生む源泉となる。また、保守料(サポート費用)によって安定した収益を維持する、強固な契約モデルの重要性もオラクルで学んだ大きな教訓である。
■Googleで知った「圧倒的技術力」と「真の心理的安全性」
Googleに入社して最も驚かされたのは、その圧倒的な技術基盤である。世界中に10億人以上のユーザーを持つサービスを10個以上展開しているが、彼らのデータセンターは「地球規模の巨大な1個のコンピューター」として設計されている。部品が壊れることを前提にシステムが構築されており、万が一トラブルが発生しても、40ミリ秒以内に自動復旧するためユーザーは停止にすら気づかない。
また、Googleが重視する「心理的安全性」についても、日本人は正しく理解しなければならない。それは単なる「仲良しグループ」であることを意味しない。心理的安全性は、常に「高いパフォーマンス」とセットで語られるべきものである。3ヶ月に一度は上司と数字に基づいた徹底的な面談を行い、最高の成果を求める。ベストな人材を採用し、無料の食事やジムといった最高の環境を提供し、その見返りとして最高の成果を要求する。これがGoogleという組織の強さの本質である。
■ITの歴史的転換:受動から能動的なメディアへ
ITの歴史を振り返ると、1995年の「Windows 95」登場が大きな分岐点であった。これによりインターネットが一般家庭に普及し、さらにスマートフォンの登場がその流れを加速させた。私たちは情報を一方的に受け取る側から、自ら情報を発信し、検索する側へと変わった。これを私は「能動的なメディアの登場」と呼んでいる。
技術革新は、既存のビジネスモデルを常に塗り替えていく。かつて北海道の「北一ガラス」は電球の普及でランプが売れなくなった際、漁業用の浮き玉製造へ舵を切り、さらにそれがプラスチック製に代わると観光業へと再転換して生き残った。カシオが電卓やデジカメで成功を収めたのも、完璧さを求めるあまり躊躇するのではなく、スピードを重視して市場に製品を出し続けたからである。
■AIは仕事を奪うのではなく、仕事の「仕方」を変える
「AIに仕事が奪われる」という言説に不安を抱く学生も多いだろう。しかし、私の見解は異なる。AIによって仕事そのものが消滅するのではなく、仕事の仕方の90%が変わるのである。これまで人間が膨大な時間を割いてきた「単純な作業(タスク)」をAIが肩代わりしてくれるようになる。
私たちはAIを作業の効率化に活用し、浮いた時間を「より高度な価値創造」に投下すべきである。具体的には、戦略的な思考、クリエイティブな発想、そして人間特有の共感力である。AIを単なる娯楽として消費するのではなく、自分自身の付加価値を最大化するための「優秀なパートナー」としていかに使いこなすか、その視点こそが重要となる。
■実践的なAI活用:ビジネスにおける具体的な活用事例
現在、私は松尾ジンギスカンの顧問として、実務にAIを取り入れられるか実際のニーズを確認しながら検討している。例えば、新店舗の出店戦略を練る際、携帯電話の位置情報から得た「人流データ」をAI(NotebookLM)に読み込ませる。さらに、その地域の世帯年収や競合店の状況をGeminiに分析させることで、いままでより深い検討を行うことができる。
また、米スケッチャーズ社のCEOに対してプレゼンテーションを行った際も、松尾ジンギスカンの歴史や理念、過去のインタビュー動画をAIに学習させた。それにより、アメリカ人のマインドに深く響く英語のプレゼン資料を短時間で作成することができた。AIは「多言語対応」や「文脈に沿った資料作成」において、人間の能力を劇的に拡張してくれる。自分専用の「優秀な秘書」を育てる感覚で、正確なデータを与えて分析させることが肝要である。
■これからの時代を生き抜くための3つの教訓
最後に、これからの激動の時代を生き抜くために必要な指針を3つ提示する。
第一に、「60点主義」の徹底である。日本企業の完璧主義はかつての強みであったが、現在のスピード社会では致命的な足かせとなる。コアな部分を60点で固めたら、まずは走り出せ。残りの40点はAIを活用して走りながら埋めていけばよいのである。
第二に、「人間力」の研鑽である。AIに「人間になったら何がしたいか」と問うたところ、「風を感じたい」と答えたというエピソードがある。AIには決して代替できない、芸術、文化、スポーツ、そして美味しい食事を五感で楽しむといった「実体験」こそが、共感力や創造性の源となる。
第三に、「本を読む力」を養うことである。タブレットではなく、紙の本をめくり、深く思考を巡らせる習慣を大切にしてほしい。
この「読む力」がすべての学習能力の土台となり、AI時代においても揺るぎない知性を形作る。また、真の国際人とは単に英語が話せる人のことではない。自国の文化を深く理解し、自分の言葉で中身のある話を語れる人間こそが、世界で尊重されるのである。
進化を恐れることなく、AIという強力な武器を携え、自らの意志で未来を切り拓いていくことを切に願う。
