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VICアカデミー「伝統工芸品に学ぶ和の文化と日本人-教育の現場から-」
2026年 05月 18日
VICアカデミーとは、弊社理念にある「学習と成長」の実践の1つとして開催しているVIC社員及び関係者のための
勉強会です。
「伝統工芸品に学ぶ和の文化と日本人-教育の現場から-」
講演者:株式会社キャリアコンサルティング セールスプロモーション支援事業部
これいい和係 係長 和田龍太郎氏
実施日:2026年4月22日(水)
【講演者プロフィール】
1988年生まれ
・東洋大学社会心理学科卒
・理研計器株式会社入社
・株式会社キャリアコンサルティング入社
『これいい和』の立上げに従事
東京都より経営革新計画優秀賞を受賞
(寄稿)
カレント「ものづくりの原点?美しさを追求した日本のものづくり?」
「伝統工芸に宿る和の精神」
大学講師8年「留学のすすめ」
■自己紹介と日本の魅力への気づき
私の原点は大学時代の中国・大連への留学にある。真面目一辺倒だった自分にとって、海外から日本を客観的に見る経験は大きな転機となった。外の世界に触れて初めて、日本の文化や技術の面白さに気づかされたのである。卒業後は「日本の技術を外に出す仕事がしたい」と考え、精密機器の営業職に就いた。その後、株式会社キャリアコンサルティングのセールズプロモーション事業部に所属し、日本の伝統工芸品を企業の記念品やプロモーションに活用する「これいい和」という事業を立ち上げ、約10年にわたり運営している。
私の所属する会社は、20代や30代を対象としたビジネスクール「しがく式」の運営や新卒紹介など、教育をメイン事業としている。一見、工芸品とは無関係に見えるが、伝統工芸の世界に携わる中で、工芸品を扱うことと人を教育することは、驚くほど本質が似ていると感じている。
■伝統工芸品の定義と、迫りくる業界の危機
「伝統的工芸品」とは、経済産業省が指定したものであり、現在全国に244品目存在する。都道府県や市町村独自の指定を含めると、その数は1,000種類を超える。国からの指定を受けるには、「100年以上の歴史があること」「手仕事であること」「伝統的な原材料を使用していること」など、5つの厳しい条件をすべて満たさなければならない。
しかし、現在の工芸界は「衰退業界」と言わざるを得ない。市場規模はピーク時の5,000億円から現在は1,000億円を切り、右肩下がりの状況が続いている。
職人の平均年齢は70歳を超えており、技術の継承は時間の問題という段階を通り越し、すでに手遅れに近い状態にある。
さらに深刻なのは、工芸品を作るための「道具」を作る職人がいなくなっている点だ。
例えば、陶器に絵を描くための筆を作る人がいなくなれば、どれほど優れた陶芸職人がいても、かつての技術を再現することはできなくなる。
また、職人の時給は極めて低く、家族総出で土日も返上して働いても時給800円以下、時には600円程度というケースも珍しくない。このような経済状況では、若い世代が跡を継ぐことは極めて困難であり、廃業が加速しているのが現実である。
■「育てる」喜びと、工芸品が教える精神性
こうした厳しい状況下でも私が工芸品の普及に努めるのは、工芸品には使う人が「育てる」という唯一無二の魅力があるからだ。
例えば、私が愛用している藍染の名刺ケースは、2年使い続けることでジーンズのように愛着のわく色合いに変化した。漆のお椀も同様である。新品の時は少しかすんだように見えるが、毎日手で丁寧に洗い、布で拭き上げるという手入れを20年続ければ、新品の時よりも美しく輝きを増す。これこそが、日本の先人たちの知恵である。
私は自分の箸や椀を洗う際、洗剤は使わず水だけで洗っている。15年使い続けている木のお箸も、水洗いの後に職人に研ぎ直してもらいながら大切に使っている。工芸品は、雑に扱えばすぐにボロボロになるが、丁寧に扱えばそれに応えてくれる。まるで「早く洗いなさい」「丁寧に扱いなさい」と教えてくれる母親のような存在だ。
このように手間をかけて大切に扱うことで、愛着がわき、自分自身も律せられていく過程は、教育の本質と深く通じている。
■教育現場で見える、子供たちの変化と課題
私は小学校の授業で伝統工芸について話す機会を設けている。小学4年生の教科書には工芸品の単元があるが、実物に触れた経験がない子供たちがほとんどだからだ。
授業には私物の鉄瓶や扇子、錫(すず)のコップなどを持参する。朝8時半からの授業のために、朝6時に家を出て、現地で10分ほどで着物に着替えて教壇に立つ。
子供たちにうすはりのカップを触らせる際は、「強く握ると形が変わってしまうから、壊さないように気をつけてね」と緊張感が出るような伝え方をする。今の子供たちは壊れないものばかりに囲まれているが、壊れるものを丁寧に扱う緊張感や、友達にそっと手渡す際の気遣いを経験させることは、重要な教育になると信じている。
現場で感じる課題は、デジタルネイティブ世代特有の変化である。授業中にタブレットで写真を大量に撮って終わってしまう子や、落ち着いて座っていられない子が増えている。
また、生活様式の欧米化が進み、畳も椅子もない環境が当たり前になった現代では、伝統工芸が入り込む余地そのものが失われつつある。
■工芸と教育の共通点:待つことの大切さ
工芸品の制作や教育には、共通して「待つ」という姿勢が求められる。
現代社会は効率や時間短縮が重視されがちだが、工芸品を水に浸したまま放置すれば一瞬でダメになる。教育も同様で、手を抜けば結果はすぐに出るが、丁寧に根気強く向き合えば、ある時ふと目に見える変化が訪れる。
変化は一瞬のように見えるが、その背後には積み重ねられた膨大な変化のプロセスがあるのだ。
また、業界を縛る「ルール」のあり方についても考えさせられる。
国が決めた「伝統」の条件を守るために職人が縛られ、自由な創意工夫ができなくなっている側面がある。これは学校の校則や組織運営にも通じる話であり、厳しすぎるルールが逆に衰退を招いていないかを見極める柔軟性が必要である。
■まとめ:日常の「和」が育む精神性
伝統工芸は、単なる古い道具ではなく、使う人の生活や精神を整えてくれるツールである。
私たちは今、コンクリートに固められた無機質な世界で仕事をしている。だからこそ、日常の中に木や漆といった自然素材の温かみを取り入れることが、心に余裕を生むきっかけになる。丁寧に手入れをすればピカピカになる漆器のように、手間をかけることを楽しみ、その変化を「待つ」心のゆとりを大切にしたい。
10年後、今の子供たちが社会人になる頃、伝統工芸がどのような形であれ、その精神性が引き継がれていることを願っている。私も引き続き、工芸の現場と教育の場をつなぐ活動に全力を尽くしていくつもりである。
