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VICアカデミー 「堺から世界へー刃物製作の歴史とブランド創り」
2023年 07月 18日
VICアカデミーとは、弊社理念にある「学習と成長」の実践の1つとして開催しているVIC社員及び関係者のための
勉強会です。
「堺から世界へー刃物製作の歴史とブランド創り」
講演者:八内刃物製作所 三代目 八内剛志氏
実施日:2023年6月30日(金)
八内刃物製作所
1937年 初代八内佐吉が八内刃物製作所創業
1960年 八内靖夫氏が二代目後継者に就任
1988年 堺打刃物墨流し菓子切り包丁が大阪府知事賞を受賞
1999年 堺市商工功績賞受賞
2000年 ハイス鋼三徳包丁が堺市優良観光みやげ品に登録
2012年 八内剛志氏が三代目後継者に就任
コンパクト和包丁YAUCHIが「大阪製」ブランド(地場・伝統技術部門)に認証
2014年 コンパクト和包丁YAUCHIが iFデザインアワード賞2014を受賞
■堺刃物の歴史
ルーツは古墳時代までさかのぼり、2019年に世界文化遺産に登録された大山古墳(仁徳天皇陵)の工事は、西暦379年から始まったが、この古墳を作る工事で、鍬や鋤が大量に必要となるため、全国からそれらの道具を作る職人を堺に呼び寄せた。現場では、1日最大2000人が働き、完成までに15年以上かかったため、鍛冶職人が境に住み始めた。
時は流れ、室町時代に、出雲(現在の島根県東部)で、日本刀の材料となる玉鋼(たまはがね)を伝統技法で製造した。
砂鉄と木炭を元に、純度の高い鉄類を生産する日本古来の需要な製鉄法で行い、日本刀の原材料として欠くことのできないものとなった。その玉鋼の量産体制が整ったことも堺刃物の起源とされており、600年以上の歴史があると言われている。
更に、1543年にポルトガルから鉄砲とたばこが種子島に伝来し、堺の商人である橘屋又三郎が種子島に1,2年滞在し、その間に鉄砲を熟知した。その後、堺に鉄砲の技術が伝えられた。同じころ、たばこが広がり、たばこの葉も国内で栽培されるようになり、喫煙が流行した。そのたばこの葉を刻む「たばこ包丁」が必要となった。堺の職人が作るたばこ包丁は、切れ味が良く優れていると評判で、徳川幕府は「堺極」という印を入れて幕府の専売品としたことから、名声が高まり堺刃物が全国に広まった。
■堺刃物業界について(分業制)
和包丁は「打刃物」と「抜刃物」という2つの製法がある。「抜刃物」は利器材という鉄と鋼を一体化した材料を使い、機械を使って包丁の形に打ち抜く方法である。すべて手作業の打刃物と比べて効率的で、ステンレスを使う製造方法も確立したことから、錆びにくい包丁の大量生産が可能となり一気に安価になった。
一方、「打刃物」は鉄と鋼を高温に熱し、ハンマーなどで打って成形する方法である。包丁の種類にもよるが、50工程ほどあり、40℃以上の室内のため、非常に大変な作業である。
堺の刃物はほぼ100%打刃物製法であり、簡単には真似はできない。一人前になるにも15年以上の月日がかかる。
鍛冶屋
→カンカンと熱い鉄をたたき、鋼をくっつけて、叩いたり伸ばしたりして、一つ一つ手作業で包丁の生地を作る。
刃付け屋
→鍛冶屋が作った生地を研ぎ、包丁の形に完成させる。刃を薄くし、凹凸をなくし、磨くことで美しさを兼ね備えた道具に仕立てていく。
問屋
→柄を付けたり、包丁に名前を打ち込んだり、歪んでいる物を直し、梱包、検品して小売店に卸す。昔は問屋経由でしか販売できなかったが、現在はSNSで発信ができるようになり、直で販売できるようになっている。
■堺刃物の現状
和食の料理人においては、8割?9割近くが堺の包丁を使っていると言われている。2013年に和食がユネスコの世界無形文化遺産に選ばれてから、海外では空前の和包丁ブームで、小売店で購入していく人は7割?8割が海外のお客さんである。
そのため、包丁の納期が10年前は1,2週間待ちだったのに対して、現在は半年から3年待ちの包丁もあるほど人気である。
■八内刃物製作所の新商品の開発
いろいろリサーチしたうえで、刃幅が132ミリで、柄の長さを同じにしたサイズが一番使いやすいと感じて、 9年ほど前にデザイナーと一緒に商品開発をして、「コンパクト和包丁」の製作をした。直線と曲線をミックスさせた柄を作る事に非常に苦労した。日本中を駆けまわり、この柄を作れる職人を福井県で見つけた。ほぼ理想に近い柄にはなったが、100%満足できるものではなかった。試行錯誤している時に、近所にあるリコーダーを作っている職人に相談をしに行ったら、驚いたことに「作れるよ」という返事が返ってきた。試しに作ってもらったら、理想通りの仕上がりだった。
こだわり続けて仕上がったコンパクト和包丁が、2012年に「第一回大阪製ブランド」に認定された。この賞は、大阪府内で物作り中小企業などの優れた技術、かつ想像力にあふれた製品に認定されるものである。
また、2014年には世界的権威があり、世界三大デザインショーと呼ばれている「iFデザインアワード」にも認定された。様々な人に助けられて製作したものだけに、感動もひとしおだった。
■今後の刃物業界について
現在、組合に登録をしているのは鍛冶屋で20件に満たない程度、刃付け屋で40件程度であり、非常に危機を感じている。弟子を育てるには手間と時間がかかり、一人立ちするには鍛冶屋だと15年、刃付屋でも2,3年の年月は必要だが、せっかく指導しても辞められてしまうと元も子もない。今の職人は弟子を育てることに関して、苦い経験をしているので慎重になっている。一番良いのは息子が後を継ぐ事であるが、親もきつい経験をしている分、息子に継がせたくないという気持ちがあるし、息子も親の苦労をみているだけに跡継ぎは難しい問題でもある。
そこで、堺市の行政がこのままではまずいということで動いてくれて、平成27年に「堺刃物職人養成道場」を開き、募集をかけた。鍛冶コースと刃付けコースで分かれて、1年間、各事業所で、現場実習をして学び、そのまま働きたいという気持ちになれば就職ができるという取り組みを行った。その取り組みから8名が就職し、現在4、5名が残って頑張っている。
■刃物学校の設立
刃物職人の存続のために、刃物学校を設立したいと考えている。講師は現役の職人にお願いし、月謝制にする。
半年から
1年程度たったら、登録している事業所の弟子として就職するという流れで、人材斡旋をしていく。学ぶ方も月謝を支払い、教える方も指導料をもらうことで、お互いに本気度が高まると期待している。
■職人あるある
・やたらとよく喋る→過酷な現場のため、職場では会話の充電をしている
・すぐ喧嘩をする→プライドの塊のようなところがあり、自分の意見を曲げない人が多い
・酒好き→何かにつけてお酒を飲みたがる
・だけど身体は健康→職人は身体が資本のため、焼酎を青汁割で飲むなど、健康には気をつけている人が多い
・めっちゃ早起き→夜7時頃には就寝し、朝3.4時には起きて仕事をしている