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VICアカデミー 「麻酔科医からみた医療現場」
2023年 11月 02日
VICアカデミーとは、弊社理念にある「学習と成長」の実践の1つとして開催しているVIC社員及び関係者のための
勉強会です。
「麻酔科医から見た医療現場」
講演者:イムス葛飾ハートセンター 医師 (麻酔科) 櫻井 龍氏
実施日:2023年10月23日(月)
櫻井 龍(さくらい りょう)
【略歴】
1983年生まれ、足柄上郡 大井町育ち
1995年 桐蔭学園中等教育学校 入寮
2009年 金沢大学 医学部卒業
2009年 横浜市立大学 初期研修医として勤務
2011年 横浜市立大学 麻酔科後期研修→こども病院・集中治療室・産科
2014年 国立循環器病研究センターレジデント@心臓血管麻酔研修
2016年 横浜市立大学附属病院勤務→心臓血管麻酔指導
2020年 神奈川県立こども医療センター
2021年 品川志匠会病院 脊椎専門 整形外科
2023年 イムス葛飾ハートセンター
資格 一般社団法人日本ソムリエ協会(J・S・A.) ワインエキスパート
趣味 料理・ワイン
■麻酔科医の特徴
1つ目は仕事とプライベートのオンオフがはっきりしていること。手術の準備のため、朝は早いが、帰りはほぼ定時にあがれる。
2つ目は第一印象が重要であること。患者様とのコミュニケーションは、手術前に20分程度の麻酔の説明しかないので、短時間で安心感を与えなければならない。
3つ目はあまり感謝されることがないこと。術後は患者様は麻酔のおかげで痛みがないのか、もともとそういうものなのか比較ができないので、麻酔科医の力量などが分からない。逆に痛みが酷かったら麻酔が効いていないと言われる。
4つ目は一人完結型の仕事であること。逆に言うと初めてのオペメンバーでも仕事ができる。
■麻酔科医のモチベーションの源
たまに感謝の言葉がもらえると非常に嬉しい。難しい手術を乗り切った時や、他の医師、看護婦から感謝されるとうれしく、モチベーションにつながっている。
また、結果が即座に表れることもモチベーションの1つになっている。手術中の患者様の急変にすぐに対応し、マルチタスクがうまくできた時はやりがいを感じる。テキパキ対処できるようになったら麻酔科医として一人前だと思う。
さらに、トラブルが起きる前にそのトラブルの目を摘み、手術中に何も問題が起こらずに終えることができると高いレベルの麻酔科医だと言える。一般的には、問題が起きたときに解決できる麻酔科医の方が目立つが、実は、難易度が高い手術を何事もなく終える麻酔科医の方が、高い能力を持っている。そこを目指して頑張りたいと思っている。
■手術を完遂するために必要な条件
医療サイドからすると、1.手術時に患者様が動かないこと2.患者様の呼吸・血圧が安定していること。この2点が不可欠である。患者様側にとっては、手術中に不快な記憶を残さないことが重要であり、これは痛みや吐き気、手術室での音やドクターの会話も含む。また、患者様の意識が有る無しは関係がなく、例えば意識があっても、患者様自身が不快と思わなければ手術は完遂しており、麻酔は成立しているということになる。この条件を満たすために行われる医療行為が麻酔である。
■麻酔科医の役割
麻酔科医の重要な役割の一つは気道の確保である。患者様の状態が変化した場合、必要な道具や麻酔方法を取捨選択する。リスク管理のシステムも整備されており、患者様の安全を守るためにモニタリングが行われる。全身麻酔によって体内で大きな変化が起こると、循環器系や呼吸器系の状態をモニタリングし、心電図や血圧、サチュレーションなどの情報を確認する。サチュレーションモニターは、酸素の血中濃度を示す重要な指標であり、正常範囲を保つことが重要である。術中の患者様の情報を総合的に考慮し、患者様の状態を把握する。患者様の安全を確保するために、麻酔科医は多くの情報を注意深く監視し、正確な対応が求められる。
■心臓麻酔について
心臓や大血管の病気の発症原因は複雑なため、手術方式も多岐にわたり使用する機械も多いので、麻酔コントロール管理も複雑で、必要とされる知識は多く、高い技術が必要になる。心臓麻酔は、緊急性が高く、手術が急遽必要な場合が多い。患者様が病院に到着した瞬間から手術室に急行する場合もある。手術中に急変が起きる可能性もあり、その際にも迅速な判断が求められる。
■全身麻酔について
全身麻酔は導入、維持、覚醒の3つのフェーズに分かれる。
1.導入フェーズ→最初の局面で、患者様に麻酔薬を投入し、意識を失わせて気道確保行う。気道確保が困難な場合、肺に空気を送り込む手段を用いる。送り込むことができなければ5分以内に低酸素になってしまい、危ない局面となる。麻酔薬の選定は患者様の状態や病気の種類によって調整され、血圧が低い場合は薬の量を減らし、血圧をあげる薬を併用する場合もある。薬の量や組み合わせは患者様の状態に応じて調整されるが、麻酔の導入中に患者様の意識がなくなると、呼吸が止まり気道閉塞が起きる。気道閉塞は空気の通り道を開いておこうとする筋肉が緩み、舌の根元が喉の壁に引っ付くことで起こり、睡眠時無呼吸状態になる。この気道閉塞を解除するための方法としては頭部を後ろにやり、顎を高く持ち上げる手法がある。とにかく気道確保がされているということが重要なことで、気道確保が確認されたら、気管挿管が行われる。声帯を目視しながらチューブを挿入し、食道に誤って挿入しないように聴診をしながら確認する。全身麻酔が完了すると、患者様はモニターに接続され、気管挿管が固定された状態になる。
2.維持フェーズ→導入で作った麻酔状態を一定の割合で薬を投与することで維持する。患者様の状態の変化は導入時に比べ小さくなるが、大出血や術操作による血圧の変動などにも対処する必要がある。麻酔科医はモニターや術中の状況を把握し、異常が起きていないか常に確認する。
3.覚醒フェーズ→患者の麻酔状態を回復させ、血圧が安定し、自力で呼吸が改善する状態になってから挿管チューブを抜く。麻酔状態からの覚醒には、チューブの刺激によって咳や、苦しさを感じる場合があり、これによって血圧が上昇することもある。そのため、チューブを抜くタイミングを誤ると、重要な局面となってしまう場合がある。
■ミニ知識
気管挿管が困難そうな人
アデノイド顔貌の場合、挿管が困難になることがある。一般的にアデノイド顔貌は顔の中央部が突出し、鼻が小さく見え、特に顎の部分が小さく見えることが多い。顎が小さいうえに、睡眠時無呼吸がある場合は十分な注意が必要で、体重の重さに関わらず、挿管が困難な場合がある。