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VICアカデミー「大阪と瓦斯の歴史と未来 ーカーボンニュートラルへー 」

2024年 07月 12日

VICアカデミーとは、弊社理念にある「学習と成長」の実践の1つとして開催しているVIC社員及び関係者のための
勉強会です。

「大阪と瓦斯の歴史と未来 ーカーボンニュートラルへー 」

講演者:DaigasGroup 株式会社きんぱい 監査役 深野裕一 氏
実施日:2024年6月21日(金)

深野 裕一(ふかの ひろかず)
【略歴】
1961年  大阪府泉大津市(港と繊維とだんじりの町)で生まれ育つ。
1984年  神戸大学 卒業
1984年  大阪ガス株式会社 入社
2003年  大阪ガス株式会社 人事部 人材開発チーム マネジャー
2005年  株式会社アーバネックス取締役営業部長
2010年  日商ガス販売株式会社代表取締役社長
2015年  大阪ガスLPG株式会社 常務取締役
2016年  大阪ガス株式会社 北部地区支配人
2018年  びわ湖ブルーエナジー株式会社 代表取締役社長
2021年  株式会社きんぱい 監査役

■都市ガスの歴史
 都市ガスの日本での起源は、明治時代のガス灯。昭和以降、家庭用・業務用のガス機器の広がりとともに利用が
増え、次第に工業炉やボイラーによる、産業用・工業用としても発展。現在では、ガス空調やコージェネレーションに
利用されるようになり、10年?20年の間に、都市ガスの用途は大きく変化していった。

■大阪ガスの発祥と発展
 百数十年前に、アメリカのニューヨークエジソンカンパニーの出資を受け創業。初期は、ガスエンジンの販売から、
湯沸かしやガスカマドを始めとする家庭用ガス機器(今では珍しいものとしては、ガス冷蔵庫・ガスアイロン等)の販売
によって発展していった。その後、関西地域の中小ガス会社を吸収合併し、拡大していった。
 1970年の大阪万博では、ガスパビリオンで、ガスを元にした空調を紹介。これが現代におけるコージェネレーション
システムの元となっている。

■天然ガスへの転換
 都市ガスの燃料として、昔は石炭を蒸留して発生したガスを使用していたため毒性があったが、天然ガス(主にメタン)
は人体に影響がなく安全であると共に、従来のガスと比較して熱効率も良く、更に排出されるCO2も少なく環境に優しい
ため、大阪ガスでは、1975年から天然ガスへの転換事業をスタートした。その際、一軒一軒の家庭を訪問し、 ガス機器の
熱量変更をしなければならなかったため、長期にわたる大事業となった。家庭用に限らず、工業用・産業用についても、
重油から天然ガスへの転換を行っていった。

■阪神淡路大震災の大阪ガスへの影響
 順調に発展していくと思われた時に、阪神淡路大震災が起こった。震災後には、全国から、延べ70万人強のガス
事業者が応援に駆け付け、72万戸のお客様の復旧作業を進めた。日本の都市ガス業界で、初めて大規模災害を
被ったのがこの時だった。

■天然ガスの採掘の変遷
 天然ガス(メタン)の採掘方法が変わってきている。従来は、油田や炭鉱の近くにあるメタンを採掘して使用するのが
中心だったが、地域や量の限界があり、現在、それに代わる画期的な採掘源として注目されているのが、
メタンハイドレード
およびシェールガスである。
 メタンハイドレードとは、海底にメタンと泥が一緒にシャーベット状になって埋まっているというもので、世界の多くの
地域に埋まっており、日本にもあることがわかっている。これを採掘して活用できると、日本にある分だけでも、日本全体
のガス消費量の100年分程度を賄えると言われているが、コスト面と両立できる採掘技術が発明されていない。
 これが可能になれば、日本はガスの輸入国ではなく、輸出国になれる可能性があるため、現在は国のプロジェクトになっている。
 シェールガスとは、岩盤の中にガスが閉じ込められて埋まっているもので、こちらも世界の様々な場所に埋まっている。
少し前の研究によると、世界中のシェールガスをうまく取り出せれば、世界のガス消費量の114年分を賄えると言われて
いる。シェールガスの採掘方法は、岩盤にパイプを掘り込んで、水を高圧で噴き出すことにより、岩盤にヒビを入れ、出て
きたガスを回収するというもので、既に北米を始め各地で行われているが、岩盤に水を入れることが環境破壊を引き起こ
している地域もあるため、一概に良しとはされていない。

■インフラ自由化とガス業界
 今まで電気やガスは、限られた事業者による、地域独占に近い形で供給してきたが、自由化によって大きく様変わりした。現在全国で700以上の事業者が電力の小売事業に参入しており、大阪ガスも電力を供給している。新たに参入した事業者は、自前の発電施設を持っていないところもあるため、ウクライナ戦争によって発電コストが上がった際に、電力の仕入額が大幅に上がり、続々と廃業に追い込まれるという事態がここ2年程で起こった。元々の国の制度設計では想定しない事態であったため、このようなことになったが、不安定な中でどのように道筋を立てて事業として発展させていくかということが、今後のエネルギー業界の課題となっている。

■世界のカーボンニュートラルへの流れ
 2015年のパリ協定により、「温室効果ガス排出0を目指す」と打ち出されたが、この時には期限は決まっていなかった。その後、2020年に、「2050年には温室効果ガスを0にする」という目標が提示された。ここから環境政策が大幅に変化し、次は2021年にCOP26において「2030年には2013年と比べて温室効果ガスを46%程度にする」と表明された。その他、世界の気温上昇を1.5度に抑えるということも世界中の重要課題となっている。
 現状、世界のCO2排出量で見ると、アメリカ・ロシア・中国が特に多く、日本や韓国、アフリカがそれに続く。
 2030年にCOP26の目標値を達成するには、既存の技術だけでCO2削減に取り組んでいても達成できない。 2050年にゼロエミッションを目指すには、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの割合を大きく増やし、石炭などはほぼ0にしないと、達成ができない。例えば、単一の再生可能エネルギーでゼロエミッションを目指した場合、太陽光パネルなら日本の国土の12倍の面積に敷く必要があるし、洋上風力発電なら地中海の6倍の広さの海に設置する必要があるため、実現は難しい。

■都市ガス業界が目指すカーボンニュートラル “メタネーション”という方法
 都市ガス業界としては、複数の手段を利用してカーボンニュートラルを目指すが、最重要項目は、現在使用している天然ガス(メタン)を、合成メタン(Eメタン)に置き換える“メタネーション”というもの。合成メタンを燃やせばCO2が出るが、この排出されたCO2を、合成メタンを生成する仕組みの中で回収し、全体で見たときにはCO2を帳消しにできるという考え方。
1.サバティエメタネーション:再生可能エネルギーから作られた電気を使用して、H2O(水)を電気分解して、H2とOにしたうえで、このHと大気中のCO2を合成して、CH4(メタン)を生成するというもの。
⇒エネルギー変換効率が55%?60%程度。既に新潟の工場で実証実験が始まっている。この技術で作ったメタンを、2030年に1%、都市ガスの導管に流すことが目標。
2.バイオメタネーション:汚泥や廃プラスチックをバイオガス化して、そこからメタンとCO2を取り出し、このCO2と先ほど?の電気分解で作られたH2を合成して、さらにメタンを合成する。
⇒エネルギー変換効率が55?60%程度。来年の大阪万博で実証実験する。
3.SOECメタネーション:CO2とH2Oを、ある一定の触媒技術の中に放り込むことで、化学変化がおこって合成メタンができあがるという魔法のような技術。
⇒エネルギー変換効率が85?90%と3つの中で最も高いが、現状、家庭用の2戸分程度のメタンしか生成できていない。2030年には1万戸規模、2050年には数百万戸規模に生成量を増やす。
 これらの技術によるメタンの生産量を増やし、生産コストを下げていくことが現状の課題。
 カーボンニュートラルは都市ガス事業者だけで取り組む問題ではなく、国から補助を受けたり、世界中の企業と連携したり、消費者一人一人の意識改革も並行して行うことによって初めて、達成されるものである。