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VICアカデミー「デザイナー視点での経営とマネジメント」

2024年 08月 28日

VICアカデミーとは、弊社理念にある「学習と成長」の実践の1つとして開催しているVIC社員及び関係者のための
勉強会です。

「デザイナー視点での経営とマネジメント」

講演者:株式会社テーラーバンク 代表取締役社長 永井正継氏
実施日:2024年7月19日(金)

永井正継(ながい まさつぐ)
【略歴】
1958年 6月生まれ
1980年 関西大学社会学部 卒業
1980年 BIG‐JHON入社
新規ブランドの立ち上げ、商品企画、商品開発に従事
1989年 フリーランスデザイナーとして独立し、新規ブランドの企画に従事
2003年 経営コンサルタントとして独立
2008年 株式会社バリューイノベーション チーフインストラクター
2011年 キンググロリー株式会社 取締役 経営戦略室 室長
2019年 株式会社テーラーバンク 代表取締役社長

■自己紹介
 大学卒業後、地元岡山のジーンズの会社(BIG-JOHN)に入社し、広報を担当。その後、デザインに興味を持ち、昼間は会社、夜は専門学校に通ってデザインを勉強。途中アメリカでの勤務も経験し、帰国後、新規ブランドを立ち上げ、3年間で売上30億のブランドに成長。この経験から、デザイナーとして独立し、国内外の各種ブランドに携わり、自社の企画コンサルタントも務める。しかし、リーマンショックの際に仕事を失い、研修講師としての活動も始める。

■アパレル業界の変化
 繊維産業は右肩下がりのマーケット。総出荷額はピーク時の1/7程度。逆に生産量は増えているため、需要と生産の バランスが崩れ、デフレも相まって価格低下のスパイラルに陥っている。
 また、日本のアパレルは商品の98%以上を海外で生産しており、2008年頃は圧倒的に中国での生産量が多かったが、人件費の高騰やチャイナリスクへの備えなどから、 ベトナム・インドネシア・タイを始めとする東南アジアの国にシフトしてきている。世界のファッショントレンドを牽引する国にも 変遷がある。過去は、イタリア・フランス・アメリカなどのファッションが、憧れのファッションとして世界中の注目を集めていたが、現在、日本の若者に圧倒的な人気があるのは韓国のファッション。これには、KPOPを始めとする、韓国のエンターテイメント業界とのつながりが深く、芸能人やアイドルが着た服が、SNSで拡散されてトレンドになっている。

■デザイナーの仕事
 過去にVICの鈴木社長から、「デザイナーとは、時代の変化を感性で切り取り、ファッションというメディアを 使って行うビジネス」 であると言われたが、正にその通りで、ライフスタイルの変化を敏感に感じ取る必要がある。デザイナーに必要な要素としては、“感性”と“係数”。感性というのは、一般的には、個々の心が物事を感じる能力や表現する能力のことだが、言語化しにくい部分がある。ものに対する捉え方の蓄積が感性となっていくと考えている。デザイナーとしては、この感性を常に研ぎ澄ませていく必要があるが、感性だけで勝負できる、クリエイターの川久保玲氏や山本耀司氏のような人は数少ない。多くのデザイナーは、企業内でデザインやブランドを作ることになるので、そこで必要となるのが“係数”。生産性や事業効率の部分で、モノづくりの
ノウハウや、利益を生み出すことへの知識がなければ、デザイナーとして継続してヒットを生み出していくことはできない。アパレルのマーチャンダイジングは、感覚的なトレンドと、係数を掛け合わせてどんな事業設計・製品設計にするかということを両面から考えていく。

■現在のアパレルのキーテーマ
・環境への配慮:サステナビリティについては、アパレルでも無視できない状況になっている。廃棄問題への対応。
・多様性:LGBTQへの対応は、需要が増えており、準備をしておかなければならない段階になっている。
・小ロット短納期:昔のような大量生産大量廃棄が許されない時代になってきているため、なるべく無駄や
         廃棄を出さないで済む生産ラインに注文が集中している。
・カントリーリスク分散:生産を海外に頼っており、為替の影響を大きく受けるため、リスク分散が重要。
・パーソナル化:テクノロジーの向上により、パターンオーダーが安価で可能になり、富裕層だけのものでは
         無くなっている。
・作業のデジタル化:商品管理のデジタル化や、AI活用による、業務効率化。
・カジュアル・スポーティー化:機能性が高く、より楽に着られるものが好まれる傾向にある。
・販売チャネルの変化:店舗で買うスタイルから、オンライン販売への変化
・人材不足:新卒一括採用から、中途採用にシフトチェンジ
・アフターマーケット:製品を売った後にどうするか。お直しやリサイクルへの対応。
 ⇒会社を立ち上げた大きな要因

■アフターマーケットをターゲットに、事業を立ち上げ
 世間のサステナビリティへの関心の高まりに呼応し、アフターマーケットへのアプローチとして、洋服のパーソナル化や人材不足に対応するため、株式会社テーラーバンクを立ち上げた。初年度は社員6名、売上3,000万円でスタートし、5年目の現在は、社員47名、売上3億円に成長。スタートの際に参考にしたのは、他業種のサービス。
・Apple:アップルケアのように、販売した製品の修理交換を行うサービスは、アパレルには無く、買っては
     捨てるを 繰り返すビジネスだったが、そうではないマーケットがあるのではないかと考えた。
・Youtube:倍速視聴などが好まれ、タイパを重視する消費者には、買った服を、裾直しのためにまた店に
        取りに行くのではなく、直接自宅に配送されるシステムを提供できないかと考えた。
・旭酒造(獺祭):ベテランの杜氏が担っていた酒造りの作業を標準化・データ化することにより、若い従業員で
       も美味しい酒造りが可能になった例から、洋服お直しの業界でも問題になっている、
       腕のある職人の高齢化と技術の継承について、同じように解決できないかと考えた。
・美容業界:美容業界の個人に合わせたサービスにヒントを得て、今まで業界内では避けられてきた、
      オーダースーツの再調整という一歩踏み込んだサービスの提供を考えた。今後も需要が高まると予想。
・NETFLIX:サブスク型のビジネスのように、毎回営業にいって服を売るということではなく、お直しの
      システムは、顧客と一度データ連携してしまえば、利便性のために離脱しにくく、継続的に
      受注することができた。
 それぞれの事業で見ると、他にも取り組んでいる企業はあるが、一括してまとめてできることが他社にはない強みとなり、業績は右肩上がりに成長していった。

■行動変容
 失敗と業績好調に後押しされ、新木場に第二工場を設置。物流会社の中に自社のシステムを移植し、移動効率が上がるはずと予想。また、銀座のトップレベルのお直し職人を呼び寄せ、専門学校を出たがモノづくりに携われていない若者たちに、 技術を継承する場としても機能するはずだったが、高齢の職人たちとの価値観の違いや病気による離脱などにより、赤字が 続いた。また、アパレル業界では、針がたった1本製品に入っていただけでも、会社が潰れるほどの問題となるため、針の管理は マニュアル化され、厳重にチェックされるのが大前提だが、きちんとマネジメントができる人間を置かなかったため、針管理の甘さによる、針の紛失・放置事件が起こった。このようなことが重なり、新木場工場は1年で閉鎖に追い込まれた。
 また、顧客と連携できるようなウェブシステムを作ったが、顧客が元々導入している基幹システムとの連携を図ることが難しく、導入する会社が1社も無かった。 これら失敗の原因は、自らの事業予測の甘さだった。

■アパレルの未来
 リセールの市場が、今後10年でファストファッションの2倍になると言われている。また、リサイクルについても、ヨーロッパの市場を中心に推進されているが、利益率の高いヨーロッパのアパレルと異なり、低利益率の日本のアパレルはリサイクルに力を入ると 赤字になってしまう可能性が高く、消費者のリサイクル製品への購買意欲も低いため、実際に取り組んでいくのは難しい状況。 アメリカからは、注目されるアパレルの新興企業も出てきている。ダイレクトコンシューマーと呼ばれる、工場と消費者を直接繋ぎ、消費者からオーダーがあったものを生産するので、中間マージンや廃棄が減るというシステムを持つ企業や、製品の原価を全て公開し、透明性の高い製品を販売する企業などがある。

■まとめ
 事業の起点は、顧客のニーズを深く理解し、問題点を明確に捉えることである。当事者よりも、他人の方が問題点には気づき やすいので、そこが一番大きな切り口になる。出てきた問題点について、異なる視点から様々なアプローチを図ることが、事業を仕掛けていく際には重要なポイントとなる。また、仮説を立てたら、まずは動いてみるということも重要。まず事業を立ち上げて、改善しながら進めていったことが良かった。
 最終的には、係数だけではなく、直感的な感性も大事であったと感じている。